デザイナーの理解とコミュニケーションの基本
- Fujii Mikihiro
- Feb 18
- 8 min read
Updated: Mar 5
はじめに
体験や課題解決が差別化要因になる今日、ビジネスの成功にとってデザイナーとの協働は不可欠な要素となっています。
しかし、非デザイナーがデザイナーとコミュニケーションを取ろうとして話が噛み合わなかったり思っていた成果を得られないこともあります。
それは、一括りに「デザイナー」と言っても、価値観やスキルスコープは様々で、コンテクストが繋がりにくいからです。それを解決するためには、まずはデザイナーを理解し、その理解に応じたコミュニケーションを取る必要があります。

この記事では、10年以上のデザイナーのマネジメントや採用経験を元に、その基本的な考え方をご紹介します。
デザイナー理解の基本ガイド1:価値観タイプの把握
私はデザイナーの採用やマネジメントにおいて、下記のデザインにおける4つの成果の優先順位を確認するという方法で、候補者の価値観や仕事の姿勢を理解することができるようになりました。
デザインの4つの成果
デザインのプロセス・成果物の質
価値提供・体験(社会的な価値観の変容を含む)
ユーザーの行動(社会的なムーブメントを含む)
事業の成長・持続可能性
優先順位自体には正解は無く、優先順位とその理由をタイプや業務の向き不向きを確認することができます。 実際には組み合わせや理由などを含めた複雑な解釈がありますが、まずは最も優先する成果が何であるかに基づいたシンプルなタイプ分けをご紹介します。
※この4つの成果は成果物→価値→行動→事業→成果物・・と循環しており、採用においてはそのことに言及できるかどうかもチェックしていました。
デザイナーの価値観の4つのタイプと特徴

1. 職人タイプ
制作会社に多い、一般的なデザイナーのイメージに最も近いタイプです。
必要な成果物が明確で、スキルや感性がマッチすれば頼れるパートナーになります。
最優先する成果:デザインのプロセス・成果物の質
特徴:
デザイン自体の感覚的or論理的な完成度を重視。
優秀な人はインプットも大好きで、アウトプットのクオリティが特に高い。
数字にはあまり興味が無い場合が多く、コミュニケーションが苦手な場合も多い。
コミュニケーションのポイント:
要件やクオリティに対する期待値や制約を具体的かつ明確に伝える。
どう受け取ったかを可能な限り具体的に説明(言語化orビジュアル化)してもらう。
2. 価値提供タイプ
最優先以降の優先順位によって大きな振れ幅があるタイプです。
最優先する成果:価値提供や体験
特徴:
深く考えるUI/UXデザイナーに多く見られるが、まったく深く考えない人にもそれなりに多いという厄介なタイプ。
価値の次にユーザー行動か事業成長を優先するタイプで、アウトプットのクオリティも高ければ超希少。
コミュニケーションのポイント:
提供価値ベースで議論する。
具体的な実現方法については例示に留め、相談のスタンスで進める。
3. 仕掛け人タイプ
事業会社の経験がある人がほとんどを占めるタイプです。
仮説検証をデザイナー中心で回せるように権限委譲できる現場で力を発揮します。
最優先する成果:ユーザーの行動
特徴:
事業会社での実績重視
優秀な人は自発的に仮説検証を実施
成果物の質を突き詰める感は弱い
コミュニケーションのポイント:
定量指標の目標値ベースで議論する。
具体的な実現方法については例示に留め、相談のスタンスで進める。
4. ファウンダータイプ
最も非デザイナーに近い、デザインが手段に過ぎないタイプです。
優秀な人は、実際に数年後には事業側に転身しているケースもありえます。
最優先する成果:事業の持続可能性
特徴:
コミュニケーション能力が高さ、ロジカルな議論がしやすさが高い場合が多い。
トレンドのデザインスタイルをおさえている場合が多い。
デザイン自体にこだわりが無い場合が多い。
コミュニケーションのポイント:
話の伝わりやすさと、アウトプットのクオリティが比例しない可能性が高いことを念頭に置く。
要件やクオリティに対する期待値や制約を具体的かつ明確に伝える。
注:自己認識と実際が違う場合があるので、優先順位に基づくタイプ分けが必要です。もし直接訊くことができないのであれば、推測して検証するというプロセスを踏むのもありです。その場合も最優勢だけではなく、4つの成果の優先順位を想定してください。
デザイナー理解のガイド2:スキルの把握
デザイナーの価値観がわかったとしても、
要件から成果までのロジックを構築する。
ロジック通りかつ必要な質でアウトプットする。
を満たせるスキルが無ければ望んだ成果を出すことは難しいでしょう。
デザイナーあれば、あなたがデザインと思っている領域のことはだいたいこなすことができる、と考えるのは間違いです。
■ スキルの確認方法
スキルについては下記のような方法で確認をします。
ポートフォリオ(作品集)
ポートフォリオに載っている作品だけではなく、ポートフォリオ自体をデザイナー自身の訴求媒体として捉えたクオリティ
これまでの成果物
案件との相性
気になるところがないか
これまでの上司や発注者からの評価
どんな貢献をしてもらったか
コミュニケーションのしやすさ
(できれば)4つのタイプのどれに見えたか
■ ギャップがありそう場合
案件で必要な成果物と同種の実績が無い
例:イラストが必要だがイラストの実績が無い、UIが必要だがUIの実績が無いなど。
想定されるリスク
未経験であれば制作できない可能性はかなり高いです。
対処法
正直に「実績に今回のような成果物が無いように見えますが、制作できそうでしょうか?」と訊きましょう。
本人が制作するのではなく、何らかの方法で調達するなど、現実的な方法が提示され、納得できなければ別のデザイナーを探した方が安全です。
自分のイメージに合った実績が無い
例:イラストが必要だが、イラストのテイストがイメージと違うものしか無いなど。
想定されるリスク
制作できない可能性も大いにあります。
対処法
正直に「実績にイメージに合っているものが無いように見えますが、制作できそうでしょうか?」と訊きましょう。
要件をより詳しく説明したり、事例を共有したりしましょう。
言語化やラフでの共有など、具体的なアウトプットで納得でき別のデザイナーを探した方が安全です。
その他、なんらかの不安を感じる。
対処法
この時点で不安を感じるようであれば、別のデザイナーを選択肢に入れられないかも検討すべきです。 すでに「デザイナー」と呼ばれる人がいるから「デザイン」に関することはできるだけその人に任せようとするのではなく、案件にとって最適な人に任せるべきです。もしくは多様な案件をカバーできるデザイナーをチームに入れましょう。
デザイナーとのコミュニケーションのガイド
タイプとスキルを理解することで、デザイナーにとっての「当たり前」を把握できたことになります。その先のコミュニケーションは、デザイナーと自分の「当たり前」の違いを把握した上でそのギャップを元に進めることで円滑に進めやすくなります。
では、具体的なステップをご紹介します。
コミュニケーションのステップ
1.自分のタイプも把握する
デザイナーだけではなく、自分のタイプも確認してみましょう。優先順位までしっかりつけて自分を客観視できるようにする必要があります。
2.自分のタイプとのギャップを把握する
自分とデザイナーのタイプを比べて、差がどこにあるのかを確かめます。 この時点でなぜいつも話が噛み合わないのかかがわかることも多いと思います。
要件とデザイナーのスキルのギャップを想定する
デザイナーの実績と同じものを作るという案件でも無い限り、発注者のイメージとデザイナーのアウトプットにギャップがあるのは当然です。実績に無いような種類の成果物の場合、大きなギャップがあることも想定されます。
できないと言えない、自分ができないとわからない、要求が理解できていない・・など、本人には自覚が無い場合もあるので、発注者自身が見極める必要があります。
不安な場合は発注を取りやめるという選択肢を常に持っておきましょう。
タイプとスキルに合わせたコミュニケーションをする
自分とデザイナーのタイプが違う場合は、下記の図を参考に自分の求める成果と依頼する成果物のつながりを説明してみましょう。

例:作り方/作ったモノの質が最優先のデザイナー
◯年◯月までに登録者を5000人増やしたい(事業の成長/存続可能性)。
そのためには◯年◯月までにこのLPのCTRを5%から10%に上げる(ユーザーの行動)必要があります。
20人に1人から10人に一人がクリックするイメージで、安心感と価値の訴求を強化(ユーザーの体験価値)したいと考えています。
このようなデザイン(作ったモノの質)にしたいと思います。もしもっと良い案があれば教えてください。
1回では伝わらないかもしれませんが、このようにつながりを理解してもらうことで、デザインの目的やアイディアの出し方がわかりやすくなります。
最後に
繰り返しになりますが、デザイナーとの効果的なコミュニケーションの鍵は、「デザイナー」という漠然としたイメージではなく、個々の特性を理解することにあります。
この基本的な理解を土台として、具体的なプロジェクトやタスクに合わせたコミュニケーションを組み立てていくことで、より良い協働関係を築くことができます。

